ヘッジファンドの仕組みと投資手法、日本の株式市場に与える影響について解説

2021.10.26

はじめに

富裕層や機関投資家から資金を集め、巨額の資金を運用しているのがヘッジファンドです。ファンド数は1万本を超えているといわれ、マーケットでの存在感も増しています。この記事では、ヘッジファドの仕組みや投資手法、株式市場に与える影響について解説します。

 

ヘッジファンドとは

ヘッジファンドは、1949年に米国で誕生しました。そして、買い(ロング)と売り(ショート)両方のポジションをもつことで、相場が上昇しても下降しても損をしない「絶対リターン」を目指します。

ヘッジ(hedge)とは日本語で「避ける」という意味で、相場が下がった時の資産の減少を避けることから用いられているのです。通常の投資信託は運用方法が限られているので、相場が一方向に動いた時のみ利益のでるファンドがほとんどです。

しかしヘッジファンドは、先物や信用取引などを積極的に活用することによって、相場動向に関係なく利益を狙います。ただ、元々はリスクをコントロールし、資産を守る運用をしていましたが、最近は積極的にレバレッジをかけることにより、「ハイリスク・ハイリターン」の代名詞のような存在になっています。「レバレッジ」とは、先物や信用取引において、少額の証拠金等で大きな金額を取引することです。

ヘッジファンドは私募形式のファンド

普通の投資信託は「公募投信」といい、一般の投資家から広く資金を募集します。一方、ヘッジファンドは「私募投信」で、限られた人のみが出資して運用するファンドがほとんどです。もともとヘッジファンドは、超富裕層の資金を集めてスタートしました。しかし、最近は銀行や年金基金、保険会社、大学基金などもヘッジファンドに参加するようになり、世界中のマネーを集めているのです。

 

ヘッジファンドの運用手法

日興リサーチセンターの調べによると、2021年7月末時点のヘッジファンドの運用残高は2兆3967億ドル(約263兆円)でした。そして、主な戦略別構成比は以下の通りです。

・株式ロング・ショート 33.6%

・マルチ・ストラテジー 13.8%

・イベント・ドリブン  9.9%

・アービトラージ 9.9%

・マネージドフューチャーズ 9.7%

それぞれの手法について解説します。

 

株式ロング・ショート

ヘッジファンドの代表的な投資手法が、「株式ロング・ショート」です。「ロング」は買い、「ショート」は売りを意味します。割安と判断される株式を購入する一方、割高と判断される株式を信用取引などで売り建てる投資手法です。株式市場全体の上げ下げに関わらずリターンを狙っていく手法ですが、買い銘柄が下がり、売り銘柄が値上がりすると両方で損失がでる可能性もあるので注意が必要です。

マルチ・ストラテジー

マルチ・ストラテジーとは、多くの投資戦略に分散投資し、リスク軽減を図る運用手法のことです。ファンド・オブ・ヘッジファンドと似ていますが、これは異なる運用会社が運用するさまざまなファンドに投資することです。これに対しマルチ・ストラテジーは、1つの運用会社が複数の運用戦略に投資するという点で異なります。

 

イベント・ドリブン

イベント・ドリブンは、企業の合併や買収、再編や提携など、企業の業績や将来性を大きく左右するようなイベントが発生することを予想してポジションを取る投資手法です。

 

アービトラージ

アービトラージとは、同一の価値を持つ商品の価格差がゆがんだ時、割安な方を買い、割高な方を売ります。そして、両者の価格差が縮小した時点で反対売買を行うことにより、利益を得ようとする取引のことです。裁定取引は株式市場だけでなく、金利や為替、商品(コモディティ)などさまざまな市場で行われています。

 

マネージドフューチャーズ

マネージドフューチャーズとは、世界中の先物市場を投資対象としたファンドのことです。株式や金利、債券といった金融先物市場だけでなく、原油や金、コーヒーなどの商品先物まで取引して分散投資を行います。買いだけでなく売りからも取引をするので、相場が上がっても下がっても利益を狙います。

 

日本の株式市場に与える影響

ヘッジファンドの投資手法には多くの種類がありますが、日本の株式市場に大きな影響を与える存在としてCTA(Commodity Trading Advisor)がいます。CTAはマネージドフューチャーズ戦略をとっているヘッジファンドで、レバレッジを効かせた「ハイリスク・ハイリターン」の運用を行うことで知られているのです。

そして、CTAの多くは「トレンドフォロー型」の投資戦略をとっています。トレンドフォローとは相場の動きについていこうとする投資手法です。相場上昇時には買い、下落時には売りを仕掛けます。

CTAはレバレッジを効かせて大きなポジションをとっているので、株式市場にも大きな影響を与えるのです。とくに2008年の金融危機の際、相場急落局面で株価指数先物や商品先物を売り建てて大きな実績をあげたことから注目されました。

 

まとめ

ヘッジファンドは相場の上げ下げに関係なく収益を狙いますが、とくに下げ相場で存在感を増します。通常の投資信託は、上昇相場でしか利益がでないファンドが多いからです。ただ、最近はヘッジファンド型の運用を取り入れた投資信託も販売されています。ヘッジファンド型の投資手法を採用することも、リスク分散の面から有効だと考えています。

山下耕太郎

一橋大学経済学部卒業後、証券会社でマーケットアナリスト・先物ディーラーを経て個人投資家・金融ライターに転身。投資歴20年以上。現在は金融ライターをしながら、現物株・先物・FX・CFDなど幅広い商品で運用を行う。