アクティビストの投資手法と日本企業への提案内容について解説

2021.12.09

はじめに

日本市場において、アクティビストの存在感が高まっています。アクティビストはどのような投資をおこなっているのか、そして日本企業へどのような提案をしているのかについて解説します。

 

アクティビストとは

アクティビストは「イベント・ドリブン型」の投資ファンドで、投資対象は主に上場企業です。イベント・ドリブンとは企業のM&A(買収・合併)や経営破綻、事業再編などのイベントを利用して収益を得る手法。こうしたイベントが発生すると株価が激しく動くので、その上昇・下落を収益機会とするのです。

アクティビストは割安で値ごろ感のある株式を取得し、株価が上昇した時点で売却して利ざやを稼ぎます。本来、「アクティビスト(Activist)」は活動家を表しますが、株式の世界では株主としての権利を行使し、企業に影響をおよぼそうとする投資家をいうのです。日本では「モノいう株主とも言われています。事業提案を行うなど、経営陣に積極的に働きかけるからです。

 

アクティビストからの日本企業への株主提案は増えている

株主調査を手がけているアイ・アールジャパンによると、2020年に日本の株主総会でアクティビストから株主提案を受けた企業は、24社と過去最多となりました。コーポレートガバナンス・コード(企業統治指針)や、スチュワードシップ・コード(機関投資家の行動指針)の導入により、企業と株主との対話促進が求められているからです。

コーポレートガバナンス・コードとは、企業が株主をはじめ従業員や顧客などさまざまなステークホルダーとの望ましい関係性や、企業を監視する取締役会の姿について記述した文章のことです。

また、スチュワードシップ・コードとは、機関投資家のための行動指針。2008年のリーマンショックの反省を受けて2010年にイギリスで規定され、対話と投資を通じて企業の持続的成長を促すために、「責任ある機関投資家」としての諸原則をまとめたものです。日本では2014年に金融庁が中心となって作成し、「日本版スチュワードシップ・コード」と呼ばれています。

アクティビストは「利ざや」の獲得を目指す

プライベート・エクイティ・ファンドの一つである「バイアウト・ファンド」は、企業の過半数の株式を取得して経営権を握るのに対し、アクティビストファンドは数パーセントから20%程度の株式を取得するのが通常です。

そして、株主の権利を利用して配当金を増額させたり、企業価値をアップさせたりして株価上昇につなげたりするなど、あくまでも「利ざや」の獲得を目指します。

アクティビストファンドは、以下のような様々な手法で経営陣に圧力をかけます。

 

  • 株主名簿や帳簿の閲覧要求
  • 株主総会の委任状の争奪戦(プロキシーファイト)
  • 役員報酬への反対
  • 株価低迷の責任追及
  • ポイズンピルの解除

ポイズンピルとは、敵対的な買収者が現れた場合、既存株主に新株を発行して買収者の持株比率を下げるとともに、買収にかかる費用を増大させることで買収を難しくする防衛策のことです。

たとえば、アクティビストは日本企業に対して次のような要求をおこなっています。

 

ブルドックソースに、スティールパートナーズが買収防衛策を巡る裁判

2007年6月、スティールパートナーズは関連会社を通じ、ブルドックソースを買収しようとしました。そこで、ブルドックソースは新株予約権無償割当による買収防衛策(ポイズンピル)を発表。これを不服とし、スティールパートナーズは新株予約権の行使の差し止めなどを裁判所に求めました。しかし、最高裁はポイズンピルを適法と認め、ブルドックソースは買収防衛に成功したのです。

ソニーに対し、サードポイントが半導体などの事業分離を提案

アクティビストの「サードポイント」はソニーを主要投資対象とし、2度の提案を行いました。1度目は2013年に映画などのエンターテインメント事業を分離して株式上場するよう迫りました。そして2度目は、2019年に子会社であるソニーフィナンシャルホールディングス、エムスリー、オリンパスなどの株式売却を迫ったのです。

京阪神ビルディングに対し、ストラテジックキャピタルが役員選任や政策保有株の売却を提案

ストラテジックキャピタルは、京阪神ビルの役員の大半を三井住友銀行出身者が占めていた点を問題視して経営改善を要求。そして、2020年11月から1株1,900円でTOBを実施しました。

 

グリーンメーラーとの非難も

アクティビストが企業に対して過激な要求をすると、「グリーンメーラー」とさしたる違いはなくなります。グリーンメーラーとは、経営に参加する意思がないのに経営陣に揺さぶりをかけ、割安で取得した株価を高値で買い取らせて利ざやを稼ぐ業者のことです。

アクティビストは、しょせんグリーンメーラーにすぎないとの批判があります。ただ、投資家として株式を取得している企業の業績が悪化し、株価が下落するのは最悪の展開です。ですから、経営陣に何かしらのテコ入れをすることは当然です。

今後も、日本企業に対するアクティビストからの要求は増えていくでしょう。

 

山下耕太郎

一橋大学経済学部卒業後、証券会社でマーケットアナリスト・先物ディーラーを経て個人投資家・金融ライターに転身。投資歴20年以上。現在は金融ライターをしながら、現物株・先物・FX・CFDなど幅広い商品で運用を行う。