経済を活性化させるベンチャーキャピタルファンドの投資スキームについて解説

2021.11.25

はじめに

ベンチャーキャピタルファンドの投資効率はあまりよくありません。投資対象がベンチャーでリスクが高いからです。しかし、ベンチャーキャピタルファンドには多くの資金が集まっています。IPO(新規株式公開)したときのリターンが大きいからです。この記事では、ベンチャーキャピタルファンドの投資手法について解説します。

 

ベンチャーキャピタルファンドとは

ベンチャーキャピタルファンドは、ベンチャー企業の未公開株式を数%から50%程度取得し、経営を支援するなどして企業価値を高めます。そして、事業売却や株式公開などの際に株式を売却し、利益を得ることを目的とした投資ファンドです。

実績のないベンチャー企業に投資するので、バイアウトファンドなどに比べるとリスクは高いものの、ベンチャー企業が経済再生の担い手として期待されていることから、ベンチャーキャピタルファンドの設立が相次いでいます。

 

対象となる企業規模は小さい

投資対象のベンチャー企業はリスクが高いので、ベンチャーキャピタルファンドは数多くのベンチャー企業に分散投資し、そのうちの何社かが株式公開することで利益を得るのです。ただ、上場には時間がかかるので、ほかの投資ファンドと比べると投資期間は長くなります。

またバイアウトファンドや企業再生ファンドなどと比べて、投資先企業の規模が小さいという特徴があります。投資金額も数千万円から1億円程度で、数千億円単位で投資をする企業再生ファンドなどとは規模が異なるのです。

また、ベンチャー企業は創業から数年間は赤字が続き、経営が破綻してしまうことも珍しくありません。担保にできる資産もないので、銀行からの借り入れも困難です。ですから複数の企業に投資し、リスクを分散させる必要があるのです。

 

ベンチャーキャピタルファンドは私募ファンドが多い

ベンチャーキャピタルファンドは、「私募形式」で資金調達をおこないます。私募形式のファンドでは出資者の上限が49人にしぼられ、情報開示も公募形式ほど求められません。そして、出資者は銀行や保険会社、エンジェル投資家などになります。

ベンチャー企業は新しい企業なので、投資成果を得るためには長い時間がかかります。通常、ベンチャーキャピタルファンドの投資期間は数年から10年程度と言われているのです。

企業再生ファンドやバイアウトファンド、他のヘッジファンドなどと比べても、投資期間はかなり長くなっています。そして、投資期間が長く途中で解約されると困るので、中途解約できないのが通常です。

 

ベンチャーキャピタルファンドも「プライベート・エクイティ・ファンド」の一種

ベンチャーキャピタルファンドは、「企業再生ファンド」や「バイアウトファンド」と同じように「プライベート・エクイティ・ファンド」に分類されます。プライベート・エクイティ・ファンドとは、主に未上場の株式に投資するファンドです。

投資家から資金を集めて株式を取得し、企業の再生や成長支援を行うことで株式の価値を高めます。そして、株式の上場や第三者への譲渡による利益を狙うのです。

企業再生ファンドやバイアウトファンドは、経営破綻や上場廃止した企業を対象とします。一方のベンチャーキャピタルファンドは、ベンチャー企業の立ち上げ時やアーリーステージに株式に投資し、将来の株式公開や事業売却によってキャピタルゲイン(株式の売却益)を狙います。

ベンチャーキャピタルファンドは株式を取得するだけでなく、経営スタッフとして取締役を派遣するなど、積極的に投資先企業の経営に携わることが多いのが特徴です。自ら経営に携わることで企業価値を高めて株式を売却し、キャピタルゲインを得ます。こうした手法を「ハンズオン」といいます。

 

IPO(新規株式公開)は増えている

ベンチャーキャピタルファンドの出口戦略の一つとして、 IPO(新規株式公開)がありますが、国内のIPO件数は高水準が続いています。2021年は9月までに80社が上場。年間ではリーマンショック前の2007年以来の100社を超えるとの見方もあるのです。

そして、ベンチャーキャピタルファンドの投資リターンも好調です。 日本ベンチャーキャピタル協会(JVCA)の調査によると、国内のベンチャーキャピタル42社、全120本のファンドの運用成績は2020年12月末時点で平均約2倍。2019年末とほぼ同じ水準を維持しました。

そして、TOPIX(東証株価指数)と比べたときにどの程度ファンドの投資リターンが上回ったかを示す公開市場比較(PME)では、開示指標がある2017年までの集計で、2010年から8年連続でTOPIXを上回っています。

ベンチャーキャピタルファンドの運用者のレベルが上がり、機関投資家が参加するファンドも増えてきています。 

 

まとめ

コロナ禍で一時減速していたベンチャー投資が回復しています。日本ベンチャーキャピタル協会(JVCA)の調査によると、ベンチャーキャピタルや事業会社が運営するコーポレートベンチャーキャピタル(CVC)の約4割が、これまでに比べてベンチャー投資を増やすと回答したのです。この調査は2021年5~7月に実施されました。

コロナ禍によって社会構造が変わり、新しいサービスや産業が生まれるこの時期だからこそ、ベンチャー企業に投資しようという意欲が高まっているのです。

山下耕太郎

一橋大学経済学部卒業後、証券会社でマーケットアナリスト・先物ディーラーを経て個人投資家・金融ライターに転身。投資歴20年以上。現在は金融ライターをしながら、現物株・先物・FX・CFDなど幅広い商品で運用を行う。