破綻企業を再建させる企業再生ファンドとは?その手法についても解説

2021.11.18

はじめに

破綻企業を再建する「企業再生ファンド」は、プライベート・エクイティ・ファンドの一種です。この記事では、企業再生ファンドの投資手法と過去の事例について解説します。

企業再生ファンドとは

企業再生ファンドとは、財務状況が悪化して経営不振になったり破綻したりした企業に投資し、対象企業を再生させて利益を得るファンドのことです。上場企業を対象とした企業再生ファンドもあるので、必ずしもプライベート・エクイティ(未公開株)に限るわけではありません。しかし、企業再生ファンドも、プライベート・エクイティ・ファンドの一種と考えられています。

対象企業の再生を行う際は、ファンドから企業再生の専門家を送り込むのが通常です。そして企業再生の具体的な方法として、資金調達の見直しや人員削減をはじめとしたコスト削減、不採算事業の切り離しや経営方法の改善などを行うのです。

企業再生は、地域の金融機関や中小企業基盤整備機構などと連携して行うこともあります。そして、企業再生ファンドは5~6年で投資成果を狙います。日本に企業再生ファンドが来た時は「ハゲタカファンド」とも呼ばれましたが、破綻した企業を再生していく手法には、日本企業も学ぶべき点も少なくありません。

企業再生の方法

企業再生ファンドは、最初に投資候補企業を再生できるかどうかを判断します。また投資資金が確保できるかどうかも検討します。たとえば地域に根ざした企業の場合、地元の有力企業や地方銀行から資金を集められるかどうかも判断材料になるのです。

投資することが決定すると、投資先企業の負債の買い取りや出資を行うのです。また、企業再生の知識を持つ専門家を対象企業に派遣します。企業再生の方法として、主に「ワークアウト」と「ターンアラウンド」があります。

「ワークアウト」とは、短期的な収益改善の手法です。たとえばコスト削減のためのリストラや資産売却などがあります。一方のターンアラウンドは、企業を立て直すために中長期的な経営改革を行います。会社を再建するために事業内容を見なおすほか、営業や財務、組織再編などさまざまな面で改革を行うのです。

企業再生ファンドはこうした手法を用いて経営不振の企業を立て直し、企業価値を向上させます。そして株式を公開したり、株式を譲渡したりして収益を得るのです。

 

「ハゲタカファンド」と呼ばれた新生銀行の再建

企業再生ファンドが日本に上陸した時は、「ハゲタカファンドがやってきた」と報じられました。ハゲタカはワシやタカの俗称で、動物の死骸を容赦なく食べる姿が思い浮かびます。その様子から経営破綻寸前の会社を買い取り、その経営権を握る企業再生ファンドのことを、ハゲタカファンドというようになったのです。

 とくに日本で企業再生ファンドの存在を強烈に印象付けたのが、RHJインターナショナル(旧リップルウッドジャパン)による日本長期信用銀行の買収でした。1999年5月、邦銀の買収を検討していたRHJインターナショナルは、一時国有化されていた日本長期信用銀行に目をつけ、買収に名乗りをあげたのです。

当時は企業再生ファンドに対する認識が低く、「ハゲタカファンドがやってきた」と揶揄されました。企業再生ファンドは倒産寸前の企業に狙いを定め、容赦ない手法を取ると考えられたからです。

しかし、2000年3月に日本長期信用銀行は、RHJインターナショナルが日本長期信用銀行買収専用に設立した投資ファンド「ニュー LTCBパートナーズ」に譲渡され、2001年3月2日に「新生銀行」として生まれ変わりました。

新生銀行は、2004年2月に東京証券取引所に再上場。ニュー LTCBパートナーズは約2,200億円の収入を得ました。「安く買って、高く売る」という商売の基本を、忠実に実践したのです。

 

地域再生ファンド

企業再生ファンドには、中小企業の再生や支援をメインに行う「地域再生ファンド」もあります。地方においては、中堅・中小企業の存在価値は小さくありません。中小企業が経営破綻すれば、雇用が失われるだけでなく、地域経済の地盤沈下にもつながります。企業再建を担う地域再生ファンドには、ビジネスだけではない使命感があるのです。

地域再生ファンドには、地域の金融機関だけでなく、官民共同出資組織である地域経済活性化支援機構が出資するファンドもあります。

地域再生ファンドの第1号は、福岡銀行が投資ファンド・ジェイ・ウィル・パートナーズの協力によって2003年9月に組成した「福岡銀行再生ファンド」です。その後も広島銀行が設立した「ひろしま事業再生ファンド」、京都銀行が設立した「きょうと企業再生ファンド」など、地域再生ファンドの組成が相次ぎました。

日本航空は官製ファンドの企業再生支援機構が再建

日本を代表する航空会社である日本航空は、2010年1月に会社更生法を申請。実質的に破綻しました。そして、日本航空の再建を主導したのが、官製ファンドの企業再生支援機構(現・地域経済活性化支援機構)でした。

企業再生支援機構は2009年10月に発足し、移動体通信のウィルコムやプレス金型の富士テクニカ、スポーツ器具のセノーなどの再建を行いました。日本航空は2012年9月に東証1部に再上場し、企業再生支援機構は保有する株式をすべて売却。出資金3,500億円に対して売却総額は6,633億円となり、3,133億円の売却益を得ました。

 

まとめ

企業再生ファンドは「ハゲタカ」と呼ばれた時期もありました。ただ、経営不振の企業を立て直し、企業価値を向上させる手法は日本企業も学ぶべき点が多くあります。今後も経営不振の企業に対し、企業再生ファンドの出資額は増えていくと考えられます。

 

山下耕太郎

一橋大学経済学部卒業後、証券会社でマーケットアナリスト・先物ディーラーを経て個人投資家・金融ライターに転身。投資歴20年以上。現在は金融ライターをしながら、現物株・先物・FX・CFDなど幅広い商品で運用を行う。