日本のM&A市場をリードするバイアウトファンドのメリット・デメリット

2021.11.08

はじめに

プライベート・エクイティとは、株式を上場していない「未公開株式」のことです。そして、基本的に未公開株に投資するファンドを「プライベート・エクイティ・ファンド」といいます。

プライベート・エクイティ・ファンドは、主に創業期の会社や事業に投資する「ベンチャーキャピタル」と、成熟期以降の事業や会社に投資する「バイアウト」、衰退している企業を再生させる「企業再生ファンド」の3つに分類できます。

今回は、バイアウトファンドの投資手法について解説します。

バイアウトファンドとは

バイアウトファンドは「買収ファンド」とも呼ばれ、企業の過半数の株式を取得します。そして、その企業を完全に支配下に置き、経営者を派遣します。具体的な戦略は投資先企業によって異なりますが、本業と関係ない子会社や事業を切り離したり、経営資源を有望事業や本業に集中させたりするなどの「選択と集中」を行い、企業価値を高めるのが通常です。そして、他の会社への売却や株式公開などで利益を得るのです。

プライベート・エクイティは主に未公開株に投資しますが、バイアウトファンドは上場企業に投資する場合もあります。

バイアウトファンドが誕生した理由

プライベート・エクイティ・ファンドは、複数の個人投資家や機関投資家から資金を集め、未公開株会社あるいは業績不振の上場企業などに投資します。そして、企業価値を高めた上で転売や株式を売却することで利益を得るのです。

ファンド会社は複数の投資家から資金を預かっているので、損失をだすわけにはいきません。 しかし市場はあまりにも大きすぎるので、ファンドを運用している会社がコントロールすることはできません。

しかし企業を経営すれば、自分たちの手で企業価値を高め、利益を狙うことができます。そして投資家にも収益を還元できるので、バイアウトファンドが誕生したのです。

日本でバイアウトファンドが知られるようになったのは、1990年代後半です。バブル崩壊後に発生した不良債権に追われ、銀行は企業の資金提供には極めて消極的でした。そこで経営不振企業への資金の出し手となったのが、バイアウトファンドです。

資金を提供された企業は、選択と集中に取り組みました。コアとなる事業に経営資源を集中させる一方、子会社や事業を売却して不採算部門を切り離したのです。

 

企業がバイアウトファンドを利用するメリット

企業がバイアウトファンドを利用するメリットは、主に次の2つがあります。

豊富な資金提供

バイアウトファンドを利用すれば、豊富な資金提供を受けられます。多額の資金が必要な場合、バイアウトファンドは「レバレッジドバイアウト」を利用するからです。バイアウトファンドは、企業の過半数の株式を取得するために多額の資金が必要になります。そこで買収対象企業の資産価値や将来の収益を担保に、金融機関から融資を受けるなどして買収資金を捻出する「レバレッジドバイアウト」を行うのです。買収後は企業を売却したり、事業の改善をおこなったりしてキャッシュフローを増加させ、負債を返済していきます。

経営のサポートを受けられる

バイアウトファンドでは企業価値を高めるため、経営者を派遣したり、経営戦略を作成したりしてサポートを行います。バイアウトファンドに蓄積された経験に基づくサポートなので、企業価値の向上が期待できるのです。

M&Aをサポートする

バイアウトファンドでは、M&Aを強力にサポートします。経営再建をする時、不採算部門や子会社を売却したり、戦略部門を強化するために他の企業の子会社を買収したりすることが有力な手段ですが、バイアウトファンドは積極的に売買の仲介役も務めるのです。

売買の仲介だけでなく、バイアウトファンドが一時的に子会社や事業を買い取り、転売相手を探して後に売却するケースもあります。

バイアウトファンドのデメリット

企業がバイアウトファンドを利用する時は、以下のようなデメリットもあります。

経営の自由度が低くなる

バイアウトファンドを利用すると、企業の経営自由度は低くなります。バイアウトファンドは半数の株式を取得することによって、投資先企業を買収するからです。ですから、現在の経営陣が続投する場合でも、ファンドの意思決定に逆らうことは難しくなります。

いずれ資金回収がおこなわれる

バイアウトファンドの目的は企業を再建し、出口戦略により資金を回収することです。そして、他の企業に売却されると、現在の経営陣は経営権を失ってしまいます。

バイアウトファンドがMBOを支援する場合もある

バイアウトファンドは上場企業を傘下に入れた場合、非公開化をバックアップすることもあります。上場のメリットが少なければ、経営陣による買い取り(MBO)などを支援し、非公開企業にするのです。

ただ、バイアウトファンドが敵対的買収を仕掛けることはまれで、経営陣ときちんと協議し、了解・賛同を得た上で投資するのが通常です。また、企業に参画することから「ハゲタカ」や「乗っ取り屋」と見られることもありますが、3~5年程度株式を取得するので、短期的な利ざやを狙う「ハゲタカファンド」とは違います。

もちろん、バイアウトファンドは必ずEXI T(出口)戦略が成功するとは限りません。経営再建に失敗し、損失をだすこともあるのです。それでも、日本のM&A市場のキープレーヤーになっています。今後も、日本市場におけるバイアウトファンドの存在感は高まっていくことでしょう。

山下耕太郎

一橋大学経済学部卒業後、証券会社でマーケットアナリスト・先物ディーラーを経て個人投資家・金融ライターに転身。投資歴20年以上。現在は金融ライターをしながら、現物株・先物・FX・CFDなど幅広い商品で運用を行う。